アニ・ジャンマはドルポ出身の尼僧。
ドルポは政治上の国境はネパールですが、
完全なチベット文化圏。
ボン教がとても盛んな土地です。
このアニ・ジャンマが、
昨年他界したと、ついさきほど聞きました。
享年70歳くらい。
彼女はずいぶん前から耳を悪くし。
補聴器がなければほとんど何も聞こえませんでした。
補聴器をつけていても、
「アー(なに)?」と毎回聞き返していました。
彼女は特にゾクチェンや高度な密教を、
実践していたわけでありませんでした。
でも時間さえあれば簡単な真言を唱えていました。
毎朝夕、僧院内の大マティ車堂までの急な坂道を上り、
薄暗い内部に並ぶ銅製の器に、
清水を注ぎ、
ブッダたちに供養するのが、
彼女の唯一の務めでした。
病から身体が衰弱した後、
寝たきりになったそうです。
耳が悪いため、
食事を告げる鐘が聞こえなかったこともしばしばだったとか。
結局、僧院近くに住む親戚のタンカ師のところに、
引き取られることに。
ある日、彼女は起き上がり、
急な坂道を一人で歩いて僧院までたどり着いたそうです。
そうしてヨンジン・リンポチェをはじめとする、
高僧の方々にカタ(祝福用の白いスカーフ)をささげ、
人生最後の暇乞いをしました。
親戚の家に戻ると、
その夜ひっそりと息を引き取ったそうです。
まるでおとぎ話のような話ですが、
チベット人社会には、
いまでもこうしたことがたびたびおきているそうです。